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手前どもは昔、代々麻田屋久八という旅宿でございました。
その頃のこんぴら<琴平>の宿屋は石段上の並びにあったもので、他人さまには麻田屋ですが、私どもには石段屋のおじいさんこと斯様に申し馴れていたのでございます。
天領地のこんぴらには他国から学者、画家、やくざとそれは、それは、いろいろな人種が出入りしたものでござります。
天保何年のことでしたか、江戸から小金井小次郎という親分が、私どもへ泊りまして、これが、また苦味走った鄙には見られない好い男ッ振りでございまして、「おい、女中さんよ。ここには、こんぴら灸てえのがあるじゃねえか。」 あ、申し遅れましたが旅の疲れを癒す脚灸で、私どもの婆ァがお客さまへのサービスで一点灸をすえて差し上げていたのが、ひどく、よく利くので、方々評判になっていたのでござります。何しろ相手がいい男なもので、女中共が奪い合いで果ては、ぢゃんけんで決めたということでございますから、男前には生まれたいものでござります。 |
女中が特別柔らかいのをすえたのでしょうか、「こいつは甘めえお灸だわぁー。」と親分が申しましたそうで、小金井親分が甘いお灸だといったのがはじまりでよく効く甘いお灸の麻田屋の金比羅灸というのが名物になり、家運益々繁盛いたしたということでございます。
私で丁度六代目時勢でございますな。もうお灸でもあるまいと、折角祖先の創めた甘い灸というのをとりまして、「灸まん」これで旅の疲れを癒して貰おうと存じ創めたのが、石段屋の灸まん、卵解きの饅頭でござります。
どうぞよろしゅうお引立のほどお願ひいたします。
六代目 石段屋主人敬白
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